「グランドライフ」のサビのメロディが出来上がった場所は実家。1994年のある日、その日実家に帰っていて夜作業が終わって誰もいない業務用蒸し器やあんこを炊く大釜がある部屋でギターを弾き続けていたらサビのメロディが出てきた。この時すぐに思ったことは「ポップすぎるなぁ」だった。今から考えるとポップすぎるとは思わないけど当時はそう強く思い自分には合わないのでは、と考えた。ただそのあと何回もそのメロディを繰り返して歌っているうちに自分にフィットしていく感覚があって少しずつ歌詞の断片も生まれていった。「三途の川を渡るときに走馬灯のように浮かび上がる思い出やイメージを大好きな人と一緒に見て、最後見送られていく」という曲を書き上げた時にタイトルをどうしようかと悩んだ。1つの言葉に集約するのが難しく、自分で作った曲をどう呼んだらいいかわからないまま時間が過ぎた。ある時父親が知り合いの人たちとやっていたアマチュア無線で使ってるコールナンバーの響きがとても気になった。父親のアマチュア無線のIDナンバーのようなものがたまたま「7L3EPT」だった。これを声に出してみるとなんとも言えない良い響きだった。どこにも属さない感じもして気にいって曲のタイトルにした。
95年4月から出演したTVバンドオーディション番組「えびす温泉」は1週目挑戦者として「乳飲みほせ」を演奏した(この番組についてはまた別の機会に)。「乳飲みほせ」と相手のチャンピオンバンドの曲で審査員が「3対3」に割れ同点となった。そこで急きょ番組の司会者だった鈴木慶一さんが1票持つことになり「来週もハシケンを観たい」と言っていただきチャンピオンになれた。そして2週目「7L3EPT」を演奏した。その時の審査員の皆さんの反応がすごく良かった。音楽のキャリアを積んできた人や音楽の仕事に深く携わっている人に初めて自作の曲を評価されたことで今までにはない身震いをしたことを今でもはっきり思い出せる。
歌詞の最初に出てくる「空の穴」は、偶然日本通運の美術品を梱包して輸送するバイトで出かけた上野の東京都美術館の外に展示してあった現代彫刻「マイ・スカイ・ホール」(井上武吉さん・作)を見た時に強い衝撃を受け、そのまま感じたことを歌詞にしている。「マイ・スカイ・ホール」は各地にあり広島でよくライヴをやらせてもらっているオーティス!から歩いていける場所にもある。(広島のマイ・スカイ・ホールについて書かれたもの)
2ブロック目のAメロに出てくる「モラ」は、中米に位置するグアテマラの織物。人や動物、鳥などがモチーフになっていて鮮やかないくつもの色の布を重ねて柄に合わせて布をくりぬいてその周囲を細かくまつってあるもの。姉が店長を務めていたメキシコ民芸品屋さん「カフェ・イ・アルテ」で時々バイトをやらせてもらう機会があり「モラ」を初めて見た。「カフェ・イ・アルテ」については「走る人」という曲に関しても深く関わっているのでまた別の機会に。
「グランドライフ」は、CDに収録されたものが3バージョンある。95年12月リリースのシングル、96年1月リリースのデビューアルバム『Hasiken』は同じバージョン、98年10月リリース『感謝』のバージョン。沖縄で一発録音された私の弾き語りに尾崎孝さんにラップスティールが重ねていただいた。そして2016年リリースのベスト盤『うた』のバージョン。このバージョンは全くのソロ。バンドの「Hasiken」として収録したバージョンはその中でも一番時間が短い。短いと言っても6分以上ある。『感謝』や『うた』のバージョンは9分以上。作った時からすでに9分以上の長さがあったが、最初のバージョンが短くなった理由はレコード会社ビクターの意向だ。デビューシングルが9分以上はさすがに長すぎるからできるだけ短くしてほしいとのことだった。あと「7L3EPT」では意味がわからないので普通の人でもわかりやすいタイトルを考えてほしいと言われた。おそらく今なら「7L3EPT」の方が変で面白いからこれで行こうという話になると思う(笑)。曲の骨格をできるだけ失わないように短くして(結果さっきの「モラ」が出てくる場所はカットになり間奏や繰り返される部分が少しずつカットされてる)。タイトルは考えてほしいと言われてから数日後ふと浮かんだ「グランドライフ」がそのまま正式なタイトルになり「7L3EPT」は副題として残った。
逆に最初のバージョンにはあるのに『感謝』や『うた』のバージョンにはない部分がある。「気づいた時には山の上に・・」から始まるブロックの中で歌われるコーラス部分だ。バンド「 Hasiken」のメンバーだった姉と上村美保子さん(現・ももなし)が担当している。映画のような手法(同じ情景を映しているのにカメラの視点を変えることで違う意味を観てる人に提示するような方法)を音楽でやってみたくて私が歌うメインとは違う歌詞を2人に歌ってもらっている。下に改めて書いた歌詞の中ではカッコの中に書かれてる。
歌詞のラストに出てくる「見送る人たちが小さくなっていく 手を振る 手を振る」は、初めて沖縄に一人旅に出かけた時東京の有明埠頭からフェリーに乗った時出航して岸を離れ夕暮れに染まっていく有明埠頭から手を振る人たちが小さくなっていった情景がモチーフだ。その旅をする以前と後では人生を大きく変えたターニングポイントになりこの歌を作り歌うことで新しい人生を歩き始めた。
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グランドライフ -7L3EPT-
作詞・曲 ハシケン
空の穴が産みおとしたひねくれた像を映す
鏡張りの球はとてつもなくでかい
見えるはずもない裏側の世界や
移ろう雲の流れ 君の心さえも取りこんでしまう
月にそそぐ赤い河は
錆びた鉄の匂う白い木綿
女達は染めて縫いあわせた
モラが今飛び立つ
逆上がりのできない子供達を見下ろして
よりそって燃える火を見ながら
朝が来るのを待ってる
長くキスした
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
美しくあふれる海を見ては
朝が来るのを待ってる
泣いたのは誰
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
気づいた時には 山の上に
(気づいた時 高く澄んだ青い空 山の上に高く澄んだ青い空)
高く澄んだ青い空 主の帰らない廃墟をめざし
(崩れ落ちそう 今頃来ても 遅すぎるさ)
赤い服着た列が並び
(上下赤で男女入り乱れの列がずっと先まで続いてる)
主義主張をなくして 高らかに歌う サンタルチア
(声張り上げて一人だけひどく音はずれてる)
よりそって燃える火を見ながら
朝が来るのを待ってる
長くキスした
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
美しくあふれる海を見ては
朝が来るのを待ってる
泣いたのは誰
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
遠い星が爆発した日
焼けた灰は海へ骨は山へ帰る頃
よりそって燃える火を見ながら
朝が来るのを待ってる
長くキスした
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
いとおしくあふれる海を見ては
朝が来るのを待ってる
泣いたのは誰
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
よりそって美しい星に
朝が来るのを待ってる
死んだら人はどこいくの
風に乗りどこまで飛ぼうか
ずっとずっとずっと
見送る人たちが小さくなっていく 手を振る 手を振る
見送る人たちが小さくなっていく 手を振る 手を振る

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