本格的に曲作りを始めた頃から「永遠」という言葉を歌詞に使うことにこだわりがあった。何度かメロディに歌詞をあてはめる過程で登場してきては毎度毎度却下してきた。曲作りをする中でメロディと歌詞が合わさる時にメロディだけが強くなっていたり歌詞だけが強くなっていたりしていないかどうか・・、メロディも歌詞も強い者同士(本当にそのメロディや言葉がその場に適していて、自分が望んでいるものかどうか、という意味で「強い」)が強いままバランス良く、良い意味で拮抗できているかどうか・・、メロディに言葉を載せた時に、永遠という言葉に自分が描きたい世界を本当に託して良いのだろうか・・。こんな風な曲を作る上での自分の「査定基準」に永遠という2文字は何回も候補に上がってきたが採用されることはなかった。「約束の地」という曲が生まれるまで。
私はほとんどの曲をメロディ先行で作ってきている。メロディ先行でありながら全体を聴いた時にあたかも歌詞から先に書いたように作りたいと若い頃から思い続けてきた。鼻歌のように浮かんできたメロディの断片をギターやピアノを弾きながらコードやそのメロディに合う音の響きを探していき曲を膨らませていくことが多い。メロディの全体が少しずつ見えてきたころ今度はメロディに合う歌詞の断片が出てくる。何度も何度もどこでも歌っていく。完成するまではずっとそのメロディが頭をぐるぐるしている。ご飯食べてても移動中でもライヴ直前であっても・・。だから誰とも話したくないオーラ(笑)を出しながら明後日の方を見つめながら少し恐いような(決して怒ってる訳ではない・・)目つきや顔をしてる時はその作業を頭の中でしていることが多い。
「永遠」という言葉を歌詞に使うのであれば、本当にその途方もない感覚や想い、時間・空間をたった2文字に託して良いと思える歌詞や曲を書けるまでは使いたくないという気持ちやそれ相当の覚悟が必要だと思っていた。それは私が聴いてきた歌謡曲やJ-POPの中に登場した永遠という単語が、あまりにも安易に使われすぎていないか、と疑問を常に感じてたせいもある。全ての「永遠」使用曲を知ってる訳ではないけど。本当に自分が描きたい世界を掘り下げた上でこの言葉をちゃんと使っているのだろうか?という疑問。自分はこの永遠という言葉を使う場合は「その時」が来るまで絶対使いたくなかった。
2002年のある時、グランドピアノがある吉祥寺のスタジオでひたすら曲作りをしていた時、今まで作ったことがない展開の曲の断片が浮かんできた。メロディとピアノで奏でるコード感、そして歌詞の断片が何回も何回もメロディを歌っていく中で広がっていった。メロディや歌詞が絡み合ってするすると浮かんでいく時は全く時間の感覚がなくなっていく。めちゃくちゃ楽しいし苦しくもがくけど出来上がっていく時のうれしさったら他にはない。ライヴで演奏するのとは違う高揚感と充実感が曲作りにはある。だからやめられない。歌詞の中に約束の地という言葉がポンと浮かんできた時にこの曲の方向性はほぼ決まった。そして永遠という言葉が頭をよぎり始めた。サビに出て来る「強く握った手のぬくもりを確かめながら永遠をつかんでいた」。やぶれてしまった自分自身の恋愛があったからこそ書けた歌詞だけど、気が遠くなるほど何回も何回も歌っても、ここには永遠という言葉しかメロディと絡み合うことができない、とはっきりしてきた。「その時」が来たんだと感じた。自分の中で初めて永遠という言葉を歌詞に使っていい、使って歌いたいと思える曲ができた。
約束の地を収録したアルバム『赤い実』のプロデューサー・てっちゃん(ヤマサキテツヤ)とストリングスアレンジとバイオリンを何本も重ねてくれた、たまきあやちゃんの2人が中心になって構築した壮大なアレンジによって、私がこの曲で描きたかった物語を色彩豊かな絵本をめくるように誘(いざな)ってくれている。そしてそのアレンジがしっかり後押ししてくれて、永遠という言葉を歌詞に使った肯定感を更に高めてくれた。
「約束の地」を作っていた時、常に頭に浮かんでいた場所は当時まだその地を踏んでいなかったイギリスからフランス側を見ることができるようなだだっ広い草原のような場所だった。イギリスではないが初めて2005年フランスを訪れた時、ツアーに参加してモン・サン=ミッシェル大聖堂を1人で訪れた。もしかしたらそこが約束の地を作っていた時に浮かんでいた情景の中の1つなのかもと期待を膨らませて向かってみたが、着いてみたら私が想っていたその場所ではなかった。また色々旅をする中で、あの時浮かんでいた約束の地に会えるかもしれない。
約束の地 作詞・曲 ハシケン
まとまった雨が街に滞っていた埃をきれいに洗い流して
すぐそこまで来ている夏の産声を呼び覚ます雷
傘を持たず飛び出してきたことを
今更悔やんでもどうにもならないびしょ濡れ 泣きっ面
体の奥まで濡れてしまえばもうどうでも良くなり
水たまりでわざと飛び跳ねて
街をすり抜けたら海沿いの道歩いてゆく
急に休みがとれて出かけようと決めた場所は
君と果たせなかった約束の地
いつか君と見上げた空は不安のカケラもない澄みわたる青空
強く握った手のぬくもりを確かめながら永遠をつかんでいた
重くたちこめた鉛色の雲は夕方近くになればなるほど
大陸からふきつける風の力で東へ東へ渡ってく
さっきまでの大雨がうそのように止んで
顔をのぞかせた夕陽が照らす
遠く遠くあの空の下で夢見てた風景が目の前に展がる
黄金色に輝いていた秋の日を君も憶えているのだろうか
いつか君と見上げた空は不安のカケラもない澄みわたる青空
強く握った手のぬくもりを確かめながら永遠をつかんでいた
いつか君と訪れることを夢見てた風景が目の前に展がる
北の空に降りつづいている星屑を君もどこかで見てるのだろうか

モン・サン=ミッシェル大聖堂で買った絵葉書。